- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
はじめに
慢性に経過する病気をコントロールしようとするとき,そのほとんどは家庭や職場など日々の生活の場で行われる.当然のことながら,生活の場にはさまざまな事柄が存在し,それらの一つひとつに対応しながら私たちの生活は続いていく.病気のコントロールはこれらの事柄の一つなのである.その一方で,生活の中で生じている事柄は,私たちの身近にある日常的なことであるにもかかわらず多様な事柄が複雑に絡んでいるため,表現することが難しかったり,表現する機会が得られなかったりすることも多い.
Aさんは視力低下を自覚して眼科医を受診し,そこで内科医の受診を助言された.数日後,内科医を受診し,糖尿病を指摘された.入院設備のある病院を紹介され,受診したところ,数日後に入院となった.
入院してしばらく経った頃,Aさんに気を留めていた看護師は「いろいろ大変でしたね」と声をかけた.Aさんの目は見る間に涙でいっぱいになった.これまでの経緯を話し始めたが,涙で話がとぎれとぎれになった.そこで,数分したらまた来ますからと声をかけ,カーテンをしめて病室を出た.数分後に再びベッドサイドを訪れると,Aさんは自分でカーテンを開け,ベッドに座り直していた.しっかりと話を始めた.
子どもが大きくなったので,以前から考えていた活動をしようと思って眼科に行ったこと,そこで内科に行くようにすすめられたこと,内科を受診したところ,糖尿病と診断され,眼にも影響がきていると言われたこと,さらに紹介されたこの病院を受診すると,すぐに入院が必要と言われ,失明寸前だったと指摘されたこと,これらを一気に話し続けた.自分のやりたいことをやろうと思っていた矢先の出来事であり,とてもショックだったと表現し,病気にこれまで気がつかなかった自分を責め,かつこの入院で家族に迷惑をかけたという思いを語った.
今回の学術集会のメインテーマ「長軸的コントロールの知と技—聞くまなざしと語るまなざしをふまえて—」を礎に,本稿では私たちが生活の中で病気のコントロールを続けるときに,どのような思いを抱き,どのような支援が可能なのかを考えてみようと思う.
Copyright © 2015, Japan Academy of Diabetes Education and Nursing. All rights reserved.