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1.はじめに
人を対象とする研究を行う場合、倫理的配慮をするのは当然で、倫理審査委員会の承認を得なければ実施できないものが多いが、倫理審査は時間的にも精神的にも負担だと感じる研究者も珍しくないだろう。倫理審査に対して、看護学研究者は委員の質や審査方法に対して疑問を持ち1、研究がスムーズに進まないなどの不満2を持っていることが明らかになっている。小西他3は、委員のほとんどが医師でナースが行う質的研究などをよく知らないとすると、公正な審査はできないと述べているが、実際、看護系大学の倫理委員会でさえ、81校中2校4で、また数年前の調査でも39校中3校5で、看護学の委員がいない実態があり、看護学研究の本質や質的研究などの研究法が理解されず否定されてしまうという課題も挙げられている6-8。
倫理審査委員の側も、判断に迷うなど審査に困難を感じ、委員としての研修の必要性を感じており5,9、資質向上が課題4とされている。看護系大学を対象とした2012年の調査で、新たに研究倫理審査委員になる教員に対するFDや研修を行っているのは12.6%4、学術分野の研究機関599カ所を対象とした2013年の調査では、研究者だけでなく、倫理審査委員を対象とした研究倫理の教育研修を行っているところは15.3%と少数であった10。近年、この状況は改善されてきているものの、2019-2020年に実施された調査でも、19.5%の倫理審査委員が、委員となってから研究倫理研修を受けたことがない、と回答している5。
倫理審査委員向けの研修は、AMED(日本医療研究開発機構)が、専門家委員だけでなく、事務職員や法律家委員をも対象とした動画教材を提供しているほか、ICR臨床研究入門(臨床研究eラーニングサイト)でも教材が利用でき、有料にはなるが施設に合わせてコースをアレンジしたり自機関の研究者の受講管理をしたりすることもできる。AMEDの事業として開始されたREC-EDUCATON教材プログラムは、研究者向けと倫理審査委員向けの両方の教材を提供している点で、他の教材と比較して倫理審査委員への教育により力が入れられている。また、研究機関などが企画する一般公開型の研修も開催されており、最近では一般の立場の委員に特化した研修も増えてきており、先に紹介したREC-EDUCATIONの事業では、教材の提供だけでなく、「一般の立場」倫理審査委員バンクを構築し、委員の登録を行い倫理審査委員会の求人に対応するなどの運用を開始している。
これらの教材は研究倫理の基礎や関連法規制の解説が行われ、臨床研究に関する内容は充実したものとなっている一方で、学問分野別に細分化はされておらず、看護学研究の特性を踏まえた看護学研究倫理に特化したものはなく、先行研究などで明らかになっている看護学研究者の悩みや要望にこたえる内容になっているとは言い難い。そこで、著者らは、看護学研究の倫理審査に関わる倫理審査委員と審査を受ける研究者の双方に実施した調査結果5,8,11をもとに、委員に対する看護学研究への理解を深める内容をも含む研修内容を検討したので、ここに報告する。
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