Japanese
English
- 販売していません
- Abstract 文献概要
- 参考文献 Reference
近年、様ざまな学問領域でナラティヴが盛んに用いられるようになっている。ナラティヴは、語る行為そのものである「語り」の意味と、語る行為の産物としての「物語」の意味の二つが含まれ(野口 2005)、元来は文学の領域で用いられてきた概念である。しかし、今ではその領域を超えて、たとえば、医療、看護、心理、社会福祉などの臨床領域や、社会学、文化人類学、あるいは司法領域の紛争解決において、ナラティヴをキーワードとして多様に展開されている。ナラティヴは人間関係とそれにまつわる問題のあるところならばどこでも応用できる概念であり、その方法論が注目されている(野口 2009)。
医療における「ナラティヴ」が注目されるようになった背景には、医科学的医療による患者の非人間化が挙げられる。20世紀になり急激に推進された科学的知識に基づく客観性を重視した医科学的医療の展開の中で、患者は一人ひとり異なる人間であるにもかかわらず、客観性の名のもとに、その生い立ちや生活背景、家族などとの関係性、あるいはそこから育まれた個人の価値観など、患者の個人的な側面が排除され、患者を一般化して捉える傾向が強くなっていった。このような医療が推進された結果、患者の人間性が疎外されるようになったのである。そこで、人間性ある医療を取り戻すために「ナラティヴ」に注目し、患者一人ひとりは異なる「物語」を紡ぐ存在であること、それぞれの「語り」の中に、治療やケアにとっての重要な要素が含まれることが提唱され、また「物語」や「語り」を通して、医療者と患者との関係を捉えなおすことが試みられている。医療や看護においては、ナラティヴの特徴を生かした方法は、「人間性の回復に向けたケア実践におけるパラダイム転換」と意義づける研究者もいる(大久保 2009)。
Copyright © 2013, The Japan Nursing Ethics Associatin. All rights reserved.