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はじめに
我が国の人口構成も次第に高齢化が進んで,痴呆老人の治療と処遇は今日的課題となっている。痴呆老人に治療的に係わるにはどうすればよいのか,あるいは,痴呆老人はただ衰えて行くのみなのか等の疑問はそのままに,やがて21世紀を迎えようとしている。
ところで著者は,1983年ロンドンのモーズレー病院老人精神科に滞在しその医療内容をつぶさに見学する機会があり,そこで行われていた痴呆患者に対するリアリティ・オリエンテーション(R.O.法=現実見当識法)に興味を持った。寡聞にして,この技法が我が国に紹介されたことを知らないので,その一端を紹介するのは意味あることと考えた。なお,ここに紹介するのは,モーズレー病院老人精神科で働く心理学者Robert Woods氏のR.O.法であり,氏には同名の著書がある。
この技法は,簡明にいえばコミュニケーション・アプローチであるが,その原則的概念は,知的機能の全般的低下がみられる痴呆老人と意志疎通をはかることによって,残された能力を賦活し,また発揮させるところにある。
R.O.法の起源は,米国カンザス州トペカの退役軍人病院に勤務していた医師James Folsomが1958年に「老人患者のための援助中心の活動プログラム」を創始したことに由来する。無論,それまでにもR.O.があったとは言えるのだが,それを構成し名付けたのは,このJames Folsomが最初である。そして,1960年代初めにはこの技法に関する文献もみられるようになり,その方法論もかたまり始めた。1969年にはアメリカ精神医学会もこれに関する小冊子を発行しており,現在では世界各国でこの技法が行われている。
痴呆老人の全般的機能低下の中でも,特徴的なのは時間および空間的見当識の障害である。すなわち,今日が何月何日であるか,ここがどこであるかを把握できない患者がほとんどである。ここでは,そうした老人と日常的接触をもつものにとって,基本的アプローチになると考えられる日常的R.O.法(24時間R.O.法とも呼ぶ)を紹介する。そして,この基本的アプローチを治療的に構成したセッションを行えば,それは正式R.O.法(R.O.セッションとも呼ぶ)となるが,紙数の都合で省略せざるをえない。ただ,その簡単な要点を述べると,痴呆老人を3段階に分けてその個々のレベルにふさわしい社会的場面・治療時間等を設定したうえで,R.O.法を適用するということである。いずれにしても,基本は日常的R.O.法と変わらない。
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