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1990年代中頃より「科学的根拠に基づいた医療」が提唱され,同時に介入効果(outcome)の客観的な評価に必要な尺度が開発されてきた.特に,outcomeとして機能や日常生活動作(ADL)の改善度を測るだけでなく,対象者の健康度や満足度など生活の質(QOL)の変化を知る必要があり,質問票などによるいわゆる患者立脚型アウトカム尺度が用いられている.義肢・装具は疾患の治療や医学的リハビリテーションに用いられるだけでなく,障害が固定した対象者にとってはその障害を軽減し,日常生活を円滑に行ううえで必要な道具として使用される.いずれの場合であっても,義肢や装具はその装着時間を通じてユーザーに影響を及ぼし,特に障害のあるユーザーにとっては,その適合の良否がADLだけでなくQOLをも左右するであろうことが容易に想像できる.ここで,義肢・装具の「適合」とは,①装着部位と義肢・装具インターフェースとの形状的適合性,②身体機能と義肢・装具の機能的適合性,および③義肢・装具の仕様と使用環境とのマッチングを含んだ概念と捉えられるが,これらのうち,臨床現場で行われる義肢・装具の適合判断は,①もしくは①と②のレベルに留まっているのが実情ではないだろうか.義肢・装具の供給にかかわる者は,当該の義肢・装具が結局のところユーザーのQOL向上に貢献できたのか否か,適当な尺度をもってそのoutcomeを知る必要がある.医療経済的側面においてもまた,費用を支払う側に対して「価値」を示すことが求められている.米国における義肢・装具供給では,特に保険者側からエビデンスの提示を強く求められる傾向にあり,したがって国際的にみても義肢・装具特異型QOLアウトカム評価尺度の開発が活発に行われている国の1つである.わが国においては2010年の第26回日本義肢装具学会学術大会で「義肢装具におけるエビデンスの構築を目指して」がテーマとして掲げられ,今後はアウトカム評価の導入により,使用者の活動性,機能レベル,予後見込みなどに見合った義肢・装具が適応されるべきとの方向性が示されながら,以降,これが全体的なモメンタムに至っていない.「義肢・装具サービスの価値」を明らかにすべき当事者(義肢装具士)として,状況を危惧しているところである.
臨床におけるアウトカム評価のルーチン化はすなわち,エビデンスの構築やこれによる臨床判断の正確性の向上をもたらすだけでなく,義肢・装具の提供後に元来必要なフォローアップの恒常化にもつながるものである.評価尺度の開発や選択,臨床現場における活用とデータの集積,その後のエビデンスの構築に至るまで,クリアすべき課題は山積しているが,義肢・装具供給にかかわるステークホルダー間の連携のもと,組織的な取り組みが求められている.
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