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はじめに
片麻痺を呈する脳卒中患者は,発症後3カ月の時点で19%1),発症後12カ月の時点で38%2)の患者に痙縮が見られるとされている.上位運動ニューロンが障害され,深部腱反射の亢進を伴う速度依存性の伸張反射亢進状態となり生じる痙縮は,痙縮それ自体がリハビリテーション(以下,リハ)の阻害因子になり得るだけでなく,二次的に関節拘縮や疼痛を引き起こし,患者の日常生活動作へ支障をきたすことは臨床上よく見受けられることである.表1に痙縮による悪影響を挙げる.
痙縮は,γ運動ニューロンの活動性の亢進,筋紡錘感受性の上昇,Ia群線維終末に対するシナプス前抑制の減少,Ia群線維の変性/発芽現象,α運動ニューロンへの興奮性入力の増大および抑制性入力の減少,シナプス後膜の感受性の上昇などの関与が推測されているが,いまだ明らかでないことも多い.痙縮の治療としては,表2に示すごとくであるが,その中でA型ボツリヌス毒素(以下BoNT-A)はボツリヌス菌によって産生される神経毒素であり,神経伝達物質であるアセチルコリンの開口分泌に関係する蛋白質を切断し,結果的に筋を弛緩させる働きがある3).BoNT-Aは,いまや世界中で様々な疾患に対して広く使用されるようになっているが,本邦では痙性斜頚,眼瞼痙攣,片側顔面痙攣,2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足への効能が承認されているのみであった.ようやく,2010年10月に脳卒中後の上下肢痙縮に対するBoNT-A投与が保険収載された.
我々は,承認された月から,主に脳卒中による上肢痙縮患者を対象に広くBoNT-A投与を行っているが,常に「上肢痙縮の場合,BoNT-A投与とリハは,併用療法として介入させることによって,患者への有益効果が大きくなる」とのコンセプトに基づいた介入を試みている.ここでは,簡単にBoNT-Aの海外の動向と特色を述べ,当院におけるBoNT-A投与とリハの併用療法とその成績を紹介する.
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