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はじめに
「中枢神経系は損傷を受けると二度と再生しない」との通説が長年信じられてきた.しかし近年,骨髄間質細胞を利用した中枢神経系の再生医療の可能性が示唆されてきている.
脊髄再生の目的としては,上下位ニューロンとの接合を再構築することが挙げられるが,現状として以下の方法が報告されている.①胎仔脊髄や末梢神経による架橋,②種々の培養細胞移植(幹細胞,嗅神経鞘移植など),③内在性幹細胞の賦活化,④軸索伸展阻害因子に対する中和抗体,⑤神経栄養因子の投与,等である.
そのひとつとして,骨髄間質細胞は中枢神経再生治療において注目されている細胞である.骨髄には血球系の幹細胞が存在し,その血球系の細胞を除いた間質細胞にも多分化能を示す細胞が存在することがわかってきた.この細胞は骨髄間質細胞(bone marrow stromal cell:BMSc)と呼ばれる.骨髄間質細胞は,また,発生学的には中胚葉由来でありながら,神経系細胞,皮膚系細胞,脂肪細胞,骨細胞,軟骨細胞,筋細胞などに分化することが確認されている.
研究グループの鈴木・井出らは,この細胞を使用して脊髄損傷治療の研究を行ってきた.
in vitroにおいて,ラットの神経前駆細胞を骨髄間質細胞と共培養すると神経前駆細胞の分化と突起伸長が誘発され,多様な神経線維を中心とするネットワークが形成されることが明らかとなった1).次に,ラットの脊髄に圧挫損傷を作成し,同系ラットの大腿骨骨髄より分離培養した骨髄間質細胞を移植する研究を行った.圧挫損傷直後に第四脳室より脊髄液内に骨髄間質細胞を移植した.投与後運動機能評価では,非投与群と比べて投与群では有意に改善していた.また脊髄組織標本においては,圧挫損傷により形成された空洞の体積を測定すると,約45%縮小していることが確認された.さらに免疫組織化学染色では,脊髄損傷部に存在する脊髄内軸索は投与群で有意に多かった.しかしながら,移植した骨髄間質細胞は,移植後5週間でほぼ完全に消失していた2~4).加えて,脊髄圧挫損傷1カ月後に骨髄間質細胞を移植したラットではこのような効果はみられなかった.以上のことより,移植した骨髄間質細胞はその細胞自体が神経細胞に分化するのではなく,何らかの液生因子を分泌して脊髄組織の自己修復能を増強していることが示唆された.
我々は彼らとともに「急性期脊髄損傷に対する培養自家骨髄間質細胞移植による脊髄再生治療(第Ⅰ~Ⅱ相臨床試験)」を計画し,関西医科大学および共同で研究を行う先端医療センターの倫理委員会において承認され,今回臨床試験が実施されたのでその経過を踏まえ報告する5).
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