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Ⅰ.はじめに
平成18(2006)年度社会保険診療報酬および介護保険介護報酬改定に先立ち,平成16(2004)年度の閣議決定において,政府は経済財政と構造改革に関する基本方針の中で,「少子高齢化が進展する中,我が国の財政運営上の最大の課題として,社会保障関係費の伸びの抑制に取り組む」との方向性を示し,あらかじめ医療費の大胆な削減を断行する意思を表明した.一方,厚生労働省が平成16年に開催した高齢者リハビリテーション研究会において,長期間にわたり漫然と行われている効果のないリハビリテーションの見直し,医療から介護への連続的なシステムの構築,リハビリテーションとケアとの境界の明確化,在宅リハビリテーションの充実について,必要性が示された.平成18年度社会保険診療報酬・介護保険制度の改定は,これらの基本方針に基づいて行われたとされる.
その結果,医療保険における診療報酬は,過去最大となる3.16%のマイナス改定であった.リハビリテーションにおいては,これまでの総合リハビリテーションを中軸として,理学療法,作業療法,言語聴覚療法ごとに設定されていた施設基準が撤廃され,疾患群別施設基準が取り入れられるなど,制度の根幹に大きな変更が加えられる改定であった.言語聴覚療法は,これまでの言語聴覚療法(Ⅰ),(Ⅱ),(Ⅲ)がなくなり,新たに設置された脳血管疾患等施設基準(Ⅰ),(Ⅱ)の中に組み込まれることになった.
改定前の基準では,言語聴覚療法(Ⅰ)は常勤言語聴覚士(以下ST)が3名以上勤務,言語聴覚療法(Ⅱ)はST1名以上が勤務することが必要であり,言語聴覚療法(Ⅲ)は非常勤STで算定が可能であった.診療報酬は,言語聴覚療法(Ⅰ)は1単位(20分)250点,言語聴覚療法(Ⅱ)は180点,言語聴覚療法(Ⅲ)は100点であった(表1).
今回の改定で設置された脳血管疾患等施設基準(Ⅰ)は,理学療法士(以下PT)5名以上,作業療法士(以下OT)3名以上,合計10名以上の人員が必要であり,言語聴覚療法を実施する場合はST1名以上が必要となっている.言語聴覚療法のみを行う場合は,ST3名以上で脳血管疾患等施設基準(Ⅰ)の取得が可能となった.脳血管疾患等施設基準(Ⅱ)はST1名以上で算定できる.人員はすべて常勤とされ,非常勤では基準取得ができなくなった.診療報酬は,脳血管疾患等施設基準(Ⅰ)は1単位(20分)250点と,これまでの言語聴覚療法(Ⅰ)と同じに設定されたが,脳血管疾患等施設基準(Ⅱ)は1単位100点と,これまでの言語聴覚療法(Ⅱ)より大幅に切り下げられた(表2).
介護保険制度については,全体で2.4%のマイナス改定であった.リハビリテーション領域を個別にみると,部分的にはプラスになっているものがある.訪問リハビリテーションにSTが位置付けられ,退院退所早期の訪問リハビリテーションに対して短期集中リハビリテーション実施加算が設置された.介護老人保健施設ではリハビリテーションマネジメント加算,短期集中リハビリテーション加算,認知症短期集中リハビリテーション加算が設置され,通所リハビリテーションでは栄養ケアマネジメント加算,口腔機能向上加算,若年性認知症ケア加算が新設された.また,老人保健施設においてリハビリテーションマネジメント加算を算定するために,週2回の個別リハビリテーションの実施が義務付けられるなど,個別リハビリテーションを促進する方向性が示された.
日本言語聴覚士協会では,今回の改定が言語聴覚障害の臨床にどのような影響を及ぼしているかをいち早く把握することを目的とし,平成18年4月から5月にかけて,道府県の言語聴覚士会に協力を要請し,会員が勤務する施設の改定前の施設基準と改定後に取得した施設基準,勤務するSTおよびPT,OT数について,緊急調査を行った.
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