特集 ケアリングコミュニティと地域リハビリテーション
脳損傷者の「主体性」を考える
能智 正博
1
1東京大学大学院教育学研究科
pp.284-287
発行日 2020年11月15日
Published Date 2020/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5003201229
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はじめに
日本脳損傷者ケアリング・コミュニティ学会では,発足当初から「主体性」の概念に注目してきた。これが脳損傷者のリハビリテーションの過程に深くかかわっているという直感があったからである。例えば医師の長谷川幹氏は40年以上にわたる実践をもとに,「次,何しようか」と「自ら考え実践する」という「主体性」が再び作られることが,生活の質の改善につながると述べ,それを脳損傷者のリハビリテーションの根幹に据えている1)。もっとも,「主体性」とは1つの言葉であり,それが使われる際,意味が常に共通であるという保証はない。それは実体というよりも「構成概念」,つまり,直接は観察されないが存在すると仮定することでものごとの説明が容易になるような仮説である。例えば「性格」とか「知能」とかも,いろいろな行動から作られる構成概念である。構成概念を,誤解を招かない形で広く利用していくためには,厳密に定義したり要素に分けたり,あるいは目に見える行動との対応づけを行ったりしなければならない。
私は縁あって,本学会の主体性研究会に初期から参加させてもらったメンバーの一人である。専門は臨床心理学ではあるが,脳損傷をもつ方々の経験を探索するような仕事を行ってきた。最近は会の取りまとめ役をしており,他のメンバーに支えられながら何とか会を切り盛りしている。本稿では,これまでの会の活動と議論をもとに,「主体性」とはどういう概念でどのようにして捉えられるのかという点について簡単に紹介したいと思う。
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