連載 感性の輝き・第40回
あの頃,そして,これから—過去を想起し,未来を想像する。そして,つながる時間
石田 英一郎
1
1アシストケアプランセンター昭島
pp.687
発行日 2016年10月15日
Published Date 2016/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5003200473
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寒さが肌に刺さるある日のこと。ケアマネジャーの僕は,新年の喧騒が残る町並みを抜け,Sさんという女性のもとへ急いでいた。「そういえば,初めて会った時も,こんな寒い時期だったなあ」。その日はなぜだか,そんなことを思いながらペダルを漕いでいた。Sさんとの出会いは,地域包括支援センターからの紹介である。家の中はとても機能的に整理され,パッと見ただけでも,細やかな方であることがわかった。僕は,いつものように介護保険の説明や,今までの状況やこれからの話を聴く。とても小さく弱々しい声でゆっくりと言葉を紡がれていくが,なぜだろう。発せられる言葉は知的で力強さを感じる印象だ。僕は少しずつさまざまなエピソードに想いを馳せる。Sさんは1年ほど前から腰部脊柱管狭窄症とうつ病を患っていて,通院と買い物以外,ほとんど家からは出ていない。結婚もせず,事務員という仕事をしながら,観劇,旅行など人生を謳歌していた。そんな折に腰痛が発症し,それまで作り上げてきた生活が崩壊…。口調や表情は徐々に曇り,何もかも不安であるということが伝わってきた。その日から,少しずつ僕は,Sさんの不安を解消すべく,時にたわいもない話をし,時に解決策を模索する日々が始まった。
しかしながら,目先の問題は徐々に解消するも,腰痛はSさんの思うようには改善しない日々が続く。少しずつ信頼関係が築かれる中で,これからの未来の話になると,「どうにかしたいけれど,もう諦めている」というアンビバレントな言葉になる。反面,ケア体制はできてきて一進一退ながらも生活自体は落ち着きを取り戻してきているのに。
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