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はじめに
身体を支える柱である背骨,そして頭部において脳を守り,咀嚼に関わる頭蓋からなる軸性骨格は,脊椎動物の主体である.動物の進化において,これらの骨がいかに出現したのか,その地球における歴史については,18世紀から盛んに議論されてきた.フランス革命が勃発,王政から共和制へと隣国が変わり,プロイセン王国の貴族階級に暗雲が漂う中,ドイツ観念論の至高であるカントに少なからず影響を受けていたゲーテ,そして解剖学者オーケンが,この問題の口火を切った8,22).彼らの提唱した仮説では,頭蓋は背骨がその様相を変えた変容の帰結だとされ,規則的に並ぶ背骨になぞらえられた頭部は,体幹部のような分節構造であるとされた.分節論は,たちまち論争を巻き起こす.比較発生学を用いたハクスレー(1858)16)による主張では,部分的(後頭骨を除く)に頭部の分節性は否定されたものの,バルフォア(1874)3)によるサメ胚の観察により,頭部中胚葉に生じる体節様形態「頭腔」の存在は,再び頭部分節性を支持する学者たちによって愛された.比較形態学者によるこの論争は,登壇する学術の舞台を変えつつ現在まで続く.頭蓋の起源問題が盛んに探究された最中,背骨の起源問題も19世紀に大いに探究された.背骨は,胚発生において沿軸中胚葉に現れる体節から分化する.この体節は,セドウィック(1884)29)によると古くはエディアカラ紀の海に漂うクラゲの腸から膨れでる憩室であったという(腸体腔仮説).この推測は,太古のクラゲの胃袋が,水中を素早く泳ぐ強靭な魚の背骨へと進化したとする浪漫ある仮説であった.
今日,頭部と背骨の起源問題を解くうえでの思索の流儀は,「胚発生過程に動物の進化の瞬間が現れる」という思想に根ざしている.この思想の源流は,ダーウィン進化論と比較胚学を統合したヘッケル(1866)10)にある.つまりは,21世紀の脊椎動物の進化研究は,19世紀的展望の軸線状にあるということだ.本稿では,200年にわたるこの問題の解決度合いについて,主として比較発生学の範疇においてその現状と内省,さらに今後の道筋を模索する.
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