巻頭言
医療と経済
井上 博
1
1富山医科薬科大学第二内科
pp.731
発行日 1994年8月15日
Published Date 1994/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404900904
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医療を経済効率から論じることには反発があるかもしれない.しかし,わが国の国民医療費の総額が20兆円を越すに至った現在,その経済効率を振り返ることは必ずしも無意味なことではない.この20兆円を越す国民医療費は国民所得の約6%を占め,欧米先進国に比べるとその割合は幸い低く抑えられている.米国,ドイツでは医療費の高騰を抑制するため,様々な政策が模索されている.米国では,臨床医の研修の場で検査や治療法の効率を考慮にいれて診療手段を選択する訓練がなされると聞く.筆者が医学部の学生であった頃,あるいは大学病院での研修中には,このような医療を経済効率の面からみる話は全くといってよいくらいなされなかった.
ある疾患が疑われる場合,検査指針の本を開き,そこに述べられている検査を片端から行っていた記憶がある.また検査もれがあると,指導医から,あるいは教授回診の時に注意されたものである.筆者が研修医であった頃と異なり,昨今は検査内容も豊富になり,ある疾患の検査指針を調べれば必要とされる検査項目がおびただしく列挙されている.しかしながら,鑑別診断として可能性は高くないが,ある疾患を除外しておこうという場合に,その疾患に関係のある検査をあまねく行う必要はなく,如何に少ない検査(費用の面ばかりでなく患者さんの肉体的な負担の軽減にもなる)で効率よく診断を進めるかが医者としての力量であろう.
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