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Key Questions
Q1:感覚統合療法におけるArtとは,子どもとのどのようなかかわりを具体的に指すのか?
Q2:子どもとの効果的なコミュニケーションを築くために必要なことは何か?
Q3:感覚統合療法のArtを,経験の浅いセラピストにどのように伝えるか?
はじめに
私は認知心理学の視点からコミュニケーションに関する研究を行ってきた.私の立場からみると,感覚統合療法における子どもとセラピストのコミュニケーションは非常に興味深く,このコミュニケーションの特徴を明らかにしたいという思いから,作業療法学を専門とする加藤寿宏先生と松島佳苗先生,認知心理学を専門とする𠮷川左紀子先生と共同研究を行ってきた.
感覚統合療法に初めて出会うとき,遊具や玩具こそが治療の要だと勘違いしそうになるが,実際のところそうではない.遊具や玩具があっても,子どもだけ,あるいは素人が補助に入るだけでは,治療は展開しない.セラピストが対象児のそのときの状況に合わせてかかわるからこそ,はじめて治療が可能になるのである.すなわち,子どもとのかかわりが治療を下支えしているのだ.
ところが,一般には,子どもとかかわることはそれほど難しいことではなく,自然にできることだと思われがちである.しかし本当にそうだろうか.経験の浅いセラピストは,子どもとかかわることの難しさを実感して戸惑うことが少なくない.たとえば,子どもは,自分が思っていることを,共通の言葉ではなく,自身が表現できる唯一の方法でセラピストに伝えることがある.それは,お気に入りのコマーシャルのフレーズを言うことや自傷やパニックといった行動かもしれない.また,子どもはセラピストの言葉に関心を示さず,理解していないようにみえることも少なくない.このような状況で感覚統合理論に基づいて介入することには難しさがある.
こうしたコミュニケーションの不具合への対処は,感覚統合療法の実践におけるArtであり,臨床では常に重視されてきた1).しかし,医療や心理療法等,多くの専門職領域においてそうであるように2),暗黙知について言語化することには難しさが伴う.感覚統合療法に関しても,感覚統合理論のScienceに比べて,Artに必要な知識や技術が論理的に十分に議論されているとはいえないのが現状である.
そこで,本稿では,これまでの研究から明らかになってきたArt,すなわち子どもとセラピストのかかわりの特徴を概観し,Artについて経験の浅いセラピストにどのように伝えるかに関して考察する.
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