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Key Questions
Q1:「キャリア」の本当の概念とは?
Q2:「ありたい姿」と「あるべき姿」の違いとは?
Q3:多様なキャリアデザインを考えるうえでの理論とは?
はじめに
読者の皆さんは「キャリア」という言葉を聞いてどういった印象をもたれますか?
本邦の作業療法士は,「資格・学位・論文」等の業績を蓄積していき,勤めている組織(病院や大学等)で評価をされて昇進する「旧来のキャリアデザイン」の価値観が比較的根強く残っている職種であると,企業や個人のコンサルティングの現場から日々私は感じています.
そうしたこれまでの流れの中で,作業療法士のキャリアデザインは今,大きなパラダイムシフトを迎えています.病院の統廃合,診療報酬の変化,資格の希少性低下等,さまざまな外的要因が影響して,「組織や業界の基準による積み上げ型のキャリアアップ」の限界が訪れているといわれています.事実,これまでにない作業療法士の働き方の多様化が,近年著しく進んできています.きっと,読者の皆さんの中にも「この組織で私はいつまで働き続けるんだろう?」,「私にとって一番いい働き方ってなんだろう?」等の不安な思いをお持ちの方もいらっしゃることかとお察しします.
一方で,その揺らぎの感情は,「変化へのチャンス」と捉えることができると私は考えます.キャリアデザインは本来「人生を表現することそのもの」であり,その表現の中心にいるのは,どんなときも自分自身であるべきです.「自分以外の誰かにキャリアの手綱を渡さない」,そうした心構えが,より重要になった時代だと感じています.
本稿の筆者である私は,いわゆる「どこにでもいる普通の作業療法士」でした.作業療法士免許を取得後,地方の一般的な総合病院に就職し,さまざまな社会的,物理的制約のもと,決して恵まれているとはいえないキャリアの環境に身を置いていました.
20代は業界や組織で評価される学位取得,論文掲載,資格取得等の「あるべき姿」を追い求めて,膨大な時間や労力を費やしていましたが,ある日を境に「自分自身がどうありたいか」を置き去りにして,「誰かが決めた正解」を追い求めていることに気がつきました.そこから,養成校教員,大学院進学,ベンチャー創業等,さまざまな人生経験を経て,少しずつ自身の「ありたい姿」に向き合っていくことで,「自らの人生を生きている感覚」を得たことを今でも強く覚えています.
現在は,今まで誰も業界で取り組まなかった,作業療法の観点を活かした一般企業の健康経営事業をかたちにする「株式会社Canvas」を創業し,経営に従事しつつ,講演やフランチャイズ,コンサルティング等で切れ間なく,さまざまな場所を飛び回る生活を送っています.また,機会に恵まれ,2023年には『セラピストのキャリアデザイン』(三輪書店)1)をはじめとした2冊の書籍を出版させていただくことができました.
そうした,作業療法士になった当初からは想像もできなかったドラスティックな人生の変化は,「あるべき姿」の呪縛から解き放たれて,自分らしい「ありたい姿」に向き合ったことから始まったと考えています.不確実で変化の激しいこの時代に,向かう方向は違えど,すべての作業療法士が自分自身のあり方を見つめ直すべき時期に差し掛かっていると感じ,本特集および次号からの連載を企画させていただきました.
本稿では,まず前半で「ありたい姿」を見つめる重要性について,後半では多様なキャリアデザインに関連する理論を複数お示しします.その後,本誌特集および今後の連載で,続く「臨床」,「教育」,「研究」,「管理」,「海外」,「転職」,「起業」,「進学」,「地域貢献」,「家庭」という10カテゴリのキャリアの開拓者に事例を綴っていただきます.
本企画が読者の皆さんの,人生で一度しかない大切なキャリアの手綱を誰かから渡してもらうまで待つのでなく,「自分ごと」として向き合う.そんな変化の後押しになれば大変嬉しく思います.
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