むつみ庵の日々・第6回
ふたつの家で
日髙 明
1
1NPO法人リライフむつみ庵
pp.546
発行日 2022年6月15日
Published Date 2022/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202996
- 有料閲覧
- 文献概要
トシコさんは,むつみ庵(グループホーム)が設立されてすぐに入居された方です.ご両親を亡くした後,実家で独り身の暮らしを長年続けていましたが,認知症を発症し,近隣からの連絡を受けた従兄弟さんに連れられてむつみ庵にやって来ました.「ねぇちゃんって呼んで〜」と言い,ご自分でも「ねぇちゃんな……」と話すので,スタッフも親しみを込めて彼女のことをそう呼ぶようになりました.「うち,あんたのこと好っきやで〜」というのが口癖で,甘え上手なところがありました.スタッフがついつい世話を焼きたくなってしまう,そういう人なのです.特にホーム長は,付き合いが一番長い分,やはり特別な思いがあったように思います.むつみ庵では最高齢なのに他の入居者さんたちからいつも年下に見られていたのは,ねぇちゃんのそうした性格に加えて,90歳を前にしても黒々とした髪や小さく華奢な体格のためでもあったのでしょう.その小さい歩幅で,「ふぁんふぁんふぁん」と呟きながら,屋内や庭を軽快に歩き回る姿をよく見たものです.
でも3年ほど前から身体が弱り,日中に居間で座っていても眠りがちになりました.老衰の自然なプロセスでした.大きな病気もなかったため入院はせず,かかりつけ医の指導のもと,むつみ庵でケアを続けましたが,次第に衰弱は進み,この夏は越せるか,この冬は越せるか,と季節が変わるたびにスタッフは気を揉んでいました.
Copyright © 2022, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.