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はじめに
近年,発達障害の当事者が求める理解と支援に関して,感覚統合・感覚情報処理の困難(感覚過敏・低反応)やそれに伴う多様な身体症状の発現(自律神経系や免疫・代謝・内分泌の不調・不具合)等の身体感覚問題の重要性が注目されはじめている1〜3).
たとえば,成人期にアスペルガー症候群の診断を受けた片岡4)は,自身の「感覚過敏」として「他人の体臭や騒音に過敏で電車に乗れない」,「オフィスの空調の音で仕事に集中できない」こと,また「自律神経調節,内分泌調節の脆弱性」として「冷暖房の温度設定の感覚が周囲と違い体調を崩す」,「急な気温や気圧の変動で著しく体調を崩す」,「睡眠覚醒リズムの調節が困難」なことを挙げている.そして“発達障害の人は,健常者と比較して内分泌調節,自律神経調節に問題がある人が多く,健常者が普通に適応できる環境変化への対応ができにくい”,“これら発達障害の身体障害性への援助はまさに発達障害者へのバリアフリーの問題”と指摘する.
また,アスペルガー症候群当事者の綾屋5)は自身の「感覚の低反応」について,空腹になると「ボーっとする」,「動けない」,「血の気が失せる」,「頭が重い」等のバラバラの身体感覚の変化を感受するが,これは風邪・疲れ・月経前でも起きるのでやり過ごすと,「胃のあたりがへこむ」,「胸がわさわさする」,「胸が締まる」という微弱な身体感覚に「なんだか気持ちが悪い」,「無性にイライラする」,「悲しい」等の気持ちがついてくるので,ひとまとまりの「空腹感」を構成できないと説明している5).綾屋は空腹感以外にもこうした「感覚の低反応」を多く有しているが,そのことを“身体内外からの情報を絞り込み,意味や行動にまとめあげるのがゆっくりな状態.また一度できた意味や行動のまとめあげパターンも容易にほどけやすい”と説明し,こうした特性を「自閉」として捉えている.
上記の例のように,発達障害当事者の有する感覚統合・感覚情報処理の困難(感覚過敏・低反応)やそれに伴う多様な身体症状(自律神経系や免疫・代謝・内分泌の不調・不具合)については理解されにくく,具体的な支援もほとんど明らかになっていない.
さて,筆者の研究室ではこれまで約20年間,日本や北欧諸国において,発達障害等の発達困難を抱える4,000人以上の当事者および保護者・支援者を対象に,「感覚過敏・低反応,身体症状,身体運動・DCD(発達性協調運動障害),体育・スポーツの困難,皮膚感覚,食の困難,睡眠困難,対人関係困難・不適応,長期欠席・不登校,暴力・非行・薬物依存,生きづらさ,SNS・ゲーム等依存」等の諸問題について調査を行い,当事者が求めている理解・支援の検討をしてきた.
本稿では,それらの当事者調査研究の結果に基づき,特に発達障害当事者の有する感覚統合・感覚情報処理の困難(感覚過敏・低反応)や,それに伴う多様な身体症状(自律神経系や免疫・代謝・内分泌の不調・不具合)の実態と支援のあり方について述べていく.紙幅の関係で,本稿のベースとなる当事者調査研究の具体については,末尾の参考文献を参照されたい.
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