わたしの大切な作業・第25回
「歩く」という幸せな作業
森沢 明夫
pp.401
発行日 2020年5月15日
Published Date 2020/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202076
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あれは東日本大震災があった年のことです。ぼくは、ひょんなことから左膝に大怪我を負いました。前十字靱帯が断裂し、半月板の一部が崩れ、関節包も内側側副靱帯も損傷という、まあ、我ながら笑っちゃうほどひどい怪我でした。
当然、手術をして、しばしの入院生活となったわけですが、じつは、このとき、たまたま病床から見かけた「廊下をスキップする幼児」の映像が、いまだに忘れられないのです。なぜなら、その瞬間、大いなる「気づき」がぼくの胸を打ったからです。《ふつうに歩けるって、なんて幸せなことだったんだ!》と、衝撃を受けたのです。スキップする幼児の姿がリアルにキラキラして見えたのでした。これは、自分が歩けなくなったからこその気づきですよね。よく、癌で余命宣告されると、世界がキラキラして見える、なんていいますが、それと同種の現象だと思います。
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