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事例提示
A氏.80代後半,女性.専業主婦,趣味は手芸・料理
家族:1年前に夫と死別してからは独居.近隣に住む娘が食事や家事の手伝いをしていた
現病歴:7年前に左下顎歯肉がんの診断を受け,下顎骨悪性腫瘍手術,左頸部郭清術を施行.術後は放射線療法,化学療法を実施.2年前に左舌がんの診断を受け,舌悪性腫瘍手術,下顎骨の一部削合が行われた.その後,化学療法が開始となったが,倦怠感と食欲不振のため中断.左下顎は病的骨折しており,左下顎皮膚瘻孔は口腔内と交通し唾液が漏れる状態であった.口腔内の疼痛,食欲不振を認め,訪問診療を開始.X年2月,ベッドからトイレまでの移動が困難となり,本人の希望により緩和ケア病棟(以下,PCU)へ入院となった.
経過(表):
1.入院〜リハ開始前:全身状態が不安定だった時期(2〜3月)
PCUでの疼痛コントロールや食事形態の工夫等のケアにより食事摂取量が増え,全身状態の改善がみられた.排泄はバルンカテーテル(以下,バルン)挿入とポータブルトイレ(以下,Pトイレ)を使用.日中をほぼベッドで臥床して過ごす.労作時に呼吸苦の訴えがあり,酸素2l吸入を開始した.転倒や転落への恐怖を訴え,不安が強かった.
2.リハ開始時:希望を引き出そうとした時期(4月)
リハ開始数日で,歩行器歩行が監視で20m程度可能となった.起居動作も監視レベルに改善した.労作時の呼吸苦やSpO2低下がみられなかったため,ADL拡大のためにバルン抜去と酸素吸入の離脱を提案したが,本人の不安が強く,拒否される.主治医より,外出から始めて,在宅生活が可能か検討してみてはと提案があり,自宅への外出の提案をするも,「家族に迷惑をかけてしまう」,「家事もしたいけど転ぶのが怖くてできない」,「家の中は段差が多くて怖い」等,強い不安を訴え,「外出,退院の希望はありません」との発言があった.そこで院内ADL拡大を目指した介入を行うこととした.
本人より「塗り絵をもっているけれど,部屋の中でする気になれない」とのが発言があり,気分転換や他者との交流も得られると考え,病棟内のフリースペースにて行うことを提案した.しかし実際にフリースペースに出ることはなく,家族より,「顔のこともあるから,あまり人がいる所には出たがらない」と情報提供があった.
3.リハ開始1カ月:希望を少しずつ話すようになった時期(5月)
歩行器歩行の距離が拡大し,自室内動作も監視から自立レベルとなった.排泄動作も,模擬練習では自立可能なレベルであった.労作時の疼痛,呼吸苦の訴えはなく,SpO2低下もないため,酸素吸入の離脱を提案したところ,本人も不安を訴えず,チームで協議して酸素吸入を中止した.排泄動作は自立レベルであり,チームで協議しバルンを抜去した.日中のトイレ回数が増えたが,しんどさはなく,監視レベルで可能となった.本人より,「自分で行きたいときにトイレに行きたいから(転落防止の)柵も外してほしい」と希望があったため,動作評価を行い,日中の自室内活動を自立許可とした.歩行練習では,歩行器からピックアップ歩行器に替えたところ,「これなら家に外出もできそう」と外出を希望する発言がきかれた.
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