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はじめに
ペアレント・トレーニングとは,心理学の研究成果を活用した行動療法に基づき,不適切な行動を減らし適切な行動を促すための心理社会的治療である1).ペアレント・トレーニングの大きな特徴は,専門家が専門機関で発達障害のある子どもへ支援を行うのではなく,その親が日常生活の中で子どもへ適切に支援できるようになるためのプログラムという点である.2016年(平成28年)に発行された注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder : ADHD)の診断・治療ガイドライン第4版2)によると,ペアレント・トレーニングは十分確立したADHDの治療法として認識され,とりわけ年少児のADHDに対する治療のファーストラインとされている.
2011年(平成23年)に実施された調査3,4)によると,日本児童青年精神医学会の医師の所属機関における支援として,ADHDでは14%,自閉スペクトラム症(autism spectrum : ASD)でも13%がペアレント・トレーニングを実施されていた.今後取り組みたい治療法としても,ADHD,ASDともに32%の医師がペアレント・トレーニングを挙げている5).
さらに,ペアレント・トレーニングは,保育者,教育者を対象としたティーチャー・トレーニングとしての広がりもみせている.その背景には,2005年(平成17年)に施行された発達障害者支援法で発達障害の早期発見,早期支援が国および地方公共団体の役割として唱えられた6)影響や,2007年(平成19年)より本格実施された特別支援教育の影響,そして発達障害の早期支援は専門的な訓練をする医療モデルで対応するよりも子どもの普段の生活を通して生活全般の機能を高めていく生活モデルによる対応のほうが有効であるとの現場の認識の広まり7)が考えられる.ティーチャー・トレーニングによって,保育者,教育者が園や学校内において「気になる」という気づきの段階からその子どもへの支援が開始できるようになってきている.このように,ペアレント・トレーニングは現在,最もニーズの高い支援方法の一つであるといっても過言ではない.
発達障害を対象としたペアレント・トレーニングには,知的能力障害児のADL向上を意識したプログラムを発展させてきたもの(肥前方式)8,9)や,ASDを対象として応用行動分析を基本に発展してきたもの10)と,ADHDを対象として行動管理とグループワークに重きを置いて発展してきたもの(奈良方式11,12),精研方式13))がある5).ここでは,奈良方式の行動管理とグループワークに重きを置いたペアレント・トレーニングである岩坂の「AD/HD家族教室(病院版)マニュアル」14)と「標準版レジュメ」15)に沿い,楠本伸枝氏(えじそんくらぶ奈良『ポップコーン』代表:http://www.geocities.jp/nara_popcorn/)の実践から学んだことも取り入れ,筆者が試行しているやり方を紹介する.
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