提言
「自立」再考—互助・助け合う“自立”の大切さ
齋藤 正洋
1
Masahiro Saito
1
1東京都リハビリテーション病院
pp.540-541
発行日 2017年7月15日
Published Date 2017/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001200943
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はじめに
「自立」の定義は,「他の助けや支配なしに自分一人の力だけで物事を行うこと.ひとりだち.独立」である.
しかしながら,東京大学先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎氏は「自立とは依存先を増やすこと」と述べている.熊谷氏は車いすで移動をしている.東日本大震災時には職場のエレベーターが止まり,建物の外に出られなくなった経験をした.健常者はエレベーターが動かなくなっても,階段や避難梯子等,階下に降りる手段がいくつかあり選択できる.それは,頼れる手段や依存できるものが複数あるということとなる.「“自立”を支えているのは依存する物や人,場が沢山あること」というわけである.初めてこの言葉を聞いたときに目からうろこが落ちたとともに,自立を支援していく者として大きな間違いを犯していたのではないかと自身の作業療法人生を振り返ったことを覚えている.
そもそも「自立」には,身体的・精神的・職業的・経済的等の自立があり,それと対比するように「依存的自立」という言葉がある.たとえば,他人の助けを借りて5分で衣服を着替えて外出する人と,自分だけでは着替えに2時間かかるため,外出できない人とを比較すると,前者のほうが自立度が高いという考えである.
この「依存的自立」は,その人自身の能力や考え,自己決定を尊重した自立のかたちであり,その人らしさをつくり上げる土台,価値観になるものである.熊谷氏にはそういった土台が根づいているのであろう.
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