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同じ麻酔科の一部署でありながら,臨床麻酔とペインクリニックとではかなり異なっている,ということに異論をさしはさむ者はおるまい。しかし,ではどのように異なっているのか,ということを具体的に指摘できるのは,臨床麻酔を中心としている方々には少ないだろう。
私がまだ研修医だった頃,恩師の一人(若き稲田英一先生だった気がするが)から麻酔について印象深い話をうかがった。
麻酔の評価法は医療の中では特殊で「減点法」だという。麻酔はあくまでも手術という治療のためのお膳立てにすぎない。重症患者に対して,患者の身体を保護しつつ理想的な術野を提供するための麻酔を行うことが,たとえどれだけ大変であったとしても,評価・称賛されることはまずない。できて当たり前,と思われてしまう。そして,手術室に入室時の状態から執刀時までに「良くする」ことはほとんどなく,いかに「悪くしないで」執刀にこぎつけるか,ということになる。だから,麻酔は減点法で採点されるのだ…。
ペインクリニックは,患者が困っていることに対して積極的に対処し「良くしていく」のだから,他の多くの診療科と同様に加点法である。特に私が在職してきた高次痛み診療施設(集学的痛みセンター)では,神経ブロック療法や薬物療法などの通常行われる痛み治療はやりつくされた患者が紹介されてくる。したがって,日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)のほんの少しの改善でも,こちらが気恥ずかしくなってしまうほど高く評価されることもある。
このような違いから,臨床麻酔を主にされている方が話されるような,劇的(画期的)な経過をたどる症例を経験したことはあまりない。ただ,ある患者を診療したことをきっかけとして,痛み診療についての私自身の考え方そのものに大きく影響を受けたことは何回かある。そのうちの一つを紹介しよう。
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