別冊春号 2020のシェヘラザードたち
第8夜 嗅ぎ注射器ができるまで—「誰かがやってくれたらなぁ」から「自分がやらなければ!」へ
石北 直之
1,2
1独立行政法人国立病院機構 新潟病院臨床研究部 医療機器イノベーション研究室
2米国火星アカデミー 遠隔医療チーム
pp.43-52
発行日 2020年4月10日
Published Date 2020/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200123
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私には夢があった。痙攣で苦しんでいる子どもを少しでも早く楽にしてあげたい。2010年12月,嗅ぐタイプでポケットサイズ
の麻酔器を着想し,2012年12月にはニュートン社(岩手県八幡平市)の技術協力のもと,重さ約50gの簡易吸入麻酔システム「嗅ぎ注射器(VapoJect)」が誕生した。研究は宇宙へ飛躍し,2017年1月には,嗅ぎ注射器の主要構成部品である人工呼吸器を,宇宙ステーションへ電子メールでデータ転送し,宇宙で3Dプリントして受け取るプロジェクト「電子メール人工呼吸器E-mail Ventilator」に成功した1)。3Dプリントできるだけでなく,プラスチックで安価に量産できるデザイン性と,必ずしも麻酔科医がいない宇宙ミッションでも使用できる簡易性が高く評価され,内閣府主催のコンテストS-Booster 2017にてANAホールディングス賞,2018年にはAerospace Medical Association(AsMA)にてR&D Innovation賞を受賞した。嗅ぎ注射器は,宇宙プロジェクトと並行して,2021年度末の国内上市,その翌年の米国上市を目指している。
今夜は,臨床医の傍ら医療機器研究開発の道に入ったきっかけ,これまでの苦労をどうやって乗り越えたか,そこから得られた教訓についてお話ししたい。
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