連載 とらうべ
ボランティア,自分のためにやっています
稲毛 洋子
1
1日本赤十字社三重県支部点訳奉仕団
pp.781
発行日 1993年10月25日
Published Date 1993/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900882
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出会いはいつも不思議なものである。あの人に出会わなかったら人生は違ったものになったであろう—そんな思いを,誰しも一度は抱くのではないだろうか。私にも15歳の時,そんな出会いがあった。たまたま知りあったカトリックの若い男性が,ある日私に点訳奉仕団の存在を教えてくれた。私は,友人と2人で電車に1時間ほど揺られ,その点訳奉仕団まで出かけた。
そこで目にしたのは点字という文字。たった6つの点の羅列で言葉が綴られていく不思議さに,私はすっかり魅せられてしまった。点字を教えて下さる先生は,全盲の男性であった。本の校正のために,傍らで点訳者が朗読するスピードと同じ速さで点字を読んでいかれる先生。そのすばらしい指先に,私の心は吸い寄せられた。それまで考えてみることもなかった「見えないということ」が,その時,思いっきり私の体全体に広がった。そして,点字というものが,目の不自由な人にとってどんなに大切なものであるかを考えた時,その本がどこにも売られていないということを知った時,私は「点字の本を作ることを生涯の仕事にしよう」と決意したのである。まだ,ライフワークという言葉も,ボランティアという言葉も使われていなかった頃のことである。
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