別冊春号 2020のシェヘラザードたち
第1夜 麻酔は気道に始まり気道に終わる—良い判断は経験から産まれ,経験は悪い判断から産まれる
福家 伸夫
1
1帝京平成大学健康医療スポーツ学部 医療スポーツ学科
pp.1-5
発行日 2020年4月10日
Published Date 2020/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3104200116
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麻酔方法がガスの吸入から静脈内注入に変わったとしても,最も重要なガスが酸素であるという真実は変わりようがない。1980年代の初め頃の麻酔器にはまだ,酸素最低流量保証装置がなく,麻酔終了時の酸素と亜酸化窒素(笑気)の取り違え事故が毎年のように報道されていた。酸素最低流量保証装置はそれほどのコストもかからず,しかも安全性が飛躍的に高まる優れた進化であったのだが,当時は,「事故は麻酔科医の精神のたるみによるものだから,そのような“おもちゃ”は無意味だし,麻酔科医をさらに堕落させる」と公然と主張した病院経営者(当然麻酔科医ではない)もいたくらいだ。こうした主張が無視されたことは日本国民の健康にとって幸せなことであった。
私は外勤先の病院で,酸素途絶を1度,亜酸化窒素途絶を1度経験している。前者は,小児の脳外科手術で,手術台の向きを変えたときに床を這っていた酸素配管が手術台の下敷きになったというものである。後者は,増築された手術室で,子宮筋腫の手術中に説明のつかない心拍増加と血圧上昇があったことで発見した。亜酸化窒素は中央配管だったが,それがカラになっていたということだ。ともに事故にはなっていない。
酸素の中央配管が全幅の信頼をおけるものではないことは,過去にも数々の実例があるが今夜は割愛し,より現実的であり,かつよりストレスの多い「気道管理」についていくつかの“記憶に残る”エピソードを紹介したい。
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