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肝癌診療ガイドライン(2013年版)1)では,ICG 15分停滞率(indocyanine green clearance test,以下ICG)を肝切除の際の術前肝機能評価として用い,手術適応はこの値と予定肝切除量とのバランスから決定するのが妥当であるとし,ICG測定を推奨している。術前肝機能評価法といえば,別稿*1で詳説したとおり,欧米をはじめ全世界で汎用されているのは,Child-Turcotte-Pugh classification/score(以下CTP)とModel for End-Stage Liver Disease(MELD)である。
CTPは,もともと胃食道静脈瘤に対する外科手術適応判定のために考案されたもので,基本的な身体所見と血液検査から得られる5項目〔アルブミン・総ビリルビン・プロトロンビン時間(PT)・腹水・肝性脳症〕を点数化し,半定量的に肝予備能を評価・分類する。CTPは簡便で,比較的正確に肝予備能を反映する評価法であるが,一方で,腹水や脳症の評価が客観的でないなど,限界も指摘されている。
MELDは,肝細胞代謝能の障害程度を正確に反映し2, 3),その上昇は肝予備能の低下と相関するといわれ4),そのため欧米において肝切除を受ける患者の術後死亡リスク予測ツールとして汎用されている5, 6)。Cucchettiら7)は,MELD score≧11の肝硬変患者では,術後高率に肝不全となると述べている。しかしその一方で,MELDは軽症肝硬変患者の肝切除術後の死亡率の予想ツールとしては限界もあると指摘されている8, 9)。
これらCTPやMELDといった有効なツールのなかで,ICGはどのように位置づけられるのか?
日本をはじめ,韓国,中国,台湾などの肝癌多発地域では,腹水の有無,血清総ビリルビン値,それにICG値により,肝切除の適応・非適応と肝許容切除範囲を決定する幕内基準10)が以前から広く用いられてきた。幕内基準(図1)はCTPやMELDよりもさらに簡便だが,奥が深い。腹水がなく,血清総ビリルビン値上昇がない場合に,ICG値により肝臓手術の方法を層別化するというもので,本基準をクリアした1056例の肝切除例についての検証で,死亡率0%という数字が示されている。
本稿では,ICGと幕内基準について簡単に紹介するとともに,日本のみならずアジア諸国を中心に多くの施設で用いられ,経験的に有用なICG,ならびにそれを用いた幕内基準が,なぜ欧米で用いられないのかについて考察し,今後ICGや幕内基準が欧米でも用いられ,さらには有用性において,CTPやMELDとの直接比較が可能となるために期待される臨床研究の方向性について考えてみたい。
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