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経皮的冠動脈インターベンション(PCI)による急性冠症候群acute coronary syndrome(ACS)に対する再灌流療法が確立し,ACSの予後は劇的に改善した。また,早期の再灌流療法がさらに予後を改善することから,より早期の正確な診断が求められるようになった。
かつてACSの診断は,自覚症状,他覚症状,心電図,心エコーなどを組み合わせてなされたが,非典型例などではその解釈に経験を要するため,診断に苦慮する症例も多かった。そのようななか,急性心筋梗塞の診断マーカーとして,1950年代にまずASTが報告され,その約10年後にクレアチンキナーゼ(CK),そのまた10年後にCK-MBとミオグロビン(Mb)が登場した。これを受けて,1979年にはWHOの診断基準が発表され,心筋梗塞の診断基準が確立したことになった。これらは,心筋から遊出する“酵素”,いわゆる“心筋逸脱酵素”と呼ばれ,注目を集めたが,心筋特異性がそれほど高くないことが欠点であった。
そこで,WHOの診断基準が発表された,そのまた10年後の1989 年にハイデルベルク大学のKatus医師が心筋特異性の極めて高い,トロポニンT(TnT)の測定法や,心筋梗塞診断における有用性を報告したことは大いなる反響を呼んだ。その後,米国心臓病学会(ACC)と欧州心臓病学会(ESC)は,心筋マーカーによるACSのリスク層別能を評価した成績をもとに,10年後の2000年には従来のCKやCK-MBに代わって,トロポニンの上昇があった場合には,CK,CK-MBが上限値の2倍を超えていなくてとも心筋梗塞と診断すべき,と再定義した。
このように,1950年代からの心筋梗塞診療における心筋マーカーは,ほぼ10年ごとに著しい進歩を遂げた。その後ACSにおける心筋トロポニンの重要性が,診断およびリスク評価の双方において確立し,ACSの診断そして予後予測に有用なマーカーが次々と発見された。そして,これらのように尿や血清中に含まれる生体由来の物質で,生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標(マーカー)となるものを,バイオマーカーと称するようになった。
その後のバイオマーカー研究の進歩は著しく,新たなバイオマーカーの発見,迅速測定キットの開発が行われ,最近では高感度トロポニンの早期診断における高い有用性が報告されている。採血1つでわかるバイオマーカーが,ACS診療のすべてを変えたと言っても過言ではない。
しかしながら,いくら優秀なバイオマーカーでも,適切に使用されなければ混乱の種となることもある。本稿では各バイオマーカーの性質を概説し,どのようなときにバイオマーカーの威力が発揮され,診療に役立つかに焦点を絞り,述べていきたい。
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