- 販売していません
- 文献概要
- サイト内被引用
動物は,変温動物から恒温動物へと進化することで,寒冷・暑熱環境でも生存できるようになった。さらに,恒温性の獲得により,有酸素反応によるエネルギー動員能が,変温動物の無酸素反応と比べると5倍以上も高くなり,スタミナという点で変温動物に対し圧倒的な優位に立った。しかし,有酸素反応による最大エネルギー動員能が大きくなるにつれ,安静時のエネルギー消費も大きくなり,恒温動物は変温動物の10倍以上の食料を必要とするようになる。いわば,アイドリング中でもガソリンをどんどん消費する燃費の悪い自動車になったのである。このため,食料確保で優位に立ったはずの恒温動物は,常に食料補給に駆られることになり,生存のためには効率的な食料の獲得方法を学習しなくてはならず,仕方なく大きな脳を発達させたといわれる。とすると,動物が恒温性を獲得したことは,単純に幸せな進化と言えないのかも…,などと役にも立たないことを考え,今日も麻酔をかけている。
新人麻酔科医にとって,手術中の体温低下はとても身近な出来事だが,なぜ体温が下がるのかという疑問に答える知識は,わずかここ十数年で蓄積されたものである。医療においては,メカニズムが解明されてその臨床応用が可能となり,さらにその知識や技術が普及して患者のアウトカムが改善することが確認されるまでには,時間を必要とする。周術期の体温低下や治療的低体温については,今まさにアウトカムに注目が集まっており,そのためのプロトコールが数多く作られている。また近年,いくつかのブレークスルーとなる発表がなされており,今がこの分野を振り返る絶好のタイミングである。
本徹底分析においては,現在,第一線で自らのデータを得るべく研究室で実験を行っている先生を中心に執筆してもらった。これは自らのデータをもつ者を尊敬する京都の風土にもとづくものである。教科書に新しい知見を加えるための研究は,スポットライトを浴びる学会の壇上ではなく,薄暗い研究室の片隅で,今日も行われている。
Copyright © 2012, "MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD." All rights reserved.