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■第38回日本救急医学会総会・学術集会が「救急医学,救急医療と社会のあり方」をテーマに先月開催されました。シンポジウム,パネルディスカッションなど,討論の時間がとれるよう3時間を当てていたことは,表面的な議論でなく,しっかりとした,この場での方向性を見いだそうという姿勢の現れでしょう。しかし,それでも時間が足りなくなったのは,シンポジストに発表の時間を与えたから。シンポジウム「救急医療と死因究明」も,結局ディスカッション時間は,次のプログラムにかぶり,延長しても30分強でした。でも,もちろん結論は出ないものの,臨床の側と法医学の側との間で,それぞれの主張,現状の問題点はしっかり示されたのではないでしょうか。死亡時画像診断(Ai)の重要性は誰もが認めるものの,一番の問題点はその活用の仕方,Aiをどこに置くか,そしてその維持費を誰が負担するか。現場に押しつけることなく,国家レベルで行う,というのが正解かもしれませんが…。
で,思い出したのが由良三郎の『犯罪集中治療室』(1991年,立風書房)に収録されている「南京虫の刺し傷」。あらすじはこうです。ある入院患者の血液から十種類以上の細菌が確認され,その老人は死亡。生前,見舞いに来ていた後妻の電話を耳にした駆け出しの看護婦は怪しいと思い,患者の体をよく見ると,心臓の先端に位置する皮膚に針で刺したような穴があることに気づきます。しかし,内科部長は,南京虫の刺し傷で事件性はないと一笑に付すのです。ところが,病理解剖が始まろうとするとき,犯罪を疑わせる決定的な証拠が出て,内科部長は法医学教室に電話し,「君に見てもらわないと自信がないし,それに,いざ警察に届けるという事態になったときは」と親しい法医学の助教授に立ち会いを頼みます。解剖の結果,心臓に針で突いた跡を見つけます。「これだけはっきりしていれば,僕が来ることはなかったね」と助教授。「開いてみるまでは,どうなっているか分からなかったからね」と内科部長。「前もってそう注意されていなければ,案外見落としてしまったかも」と助教授。「案外どころか,百パーセント見落としますよ」と病理部長。その後,刑事が来て事件は解決。うまい連係プレーでした。
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