症例検討 慢性心不全患者の麻酔
術中に生じた虚血性心不全:慢性心不全の急性増悪への対応
森 芳映
1
Yoshiteru MORI
1
1東京大学医学部附属病院 麻酔科・痛みセンター
pp.264-269
発行日 2009年3月1日
Published Date 2009/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101100615
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症例
72歳の男性。身長159cm,体重48kg。横行結腸癌に対し,横行結腸切除術が予定された。合併症として,心房細動(ジギタリス内服),糖尿病(食事療法でコントロール),高血圧(β遮断薬でコントロール良好),脳梗塞の既往(ゆっくりとなら30分の散歩可能)がある。心エコー図検査では,左室駆出率(EF)は50%,局所の壁運動異常はない。癌の転移の検索のため撮影した胸部CTで,冠動脈表面に石灰化を認めた。麻酔は全身麻酔および硬膜外麻酔で施行した。
【経過】
麻酔導入後より,収縮期血圧が90mmHgとやや低めであり,エフェドリンおよびフェニレフリンの頻回投与が必要であった。手術開始1時間後より尿量が減少したため,ドパミンを開始したが,8μg/kg/minまで投与しても,収縮期血圧は100mmHg前後で,尿量も増加しなかった。また,心電図はもともとジギタリス効果でST下降していたが,それが増悪した。中心静脈圧(CVP)は有意な変化をみなかったが,血液ガス所見で著明な代謝性アシドーシスと高乳酸血症を認めた。
【経過】
ST低下,尿量減少,代謝性アシドーシスの存在などから,心筋虚血による急性心不全の疑いがあると考え,術中に経食道心エコー法(TEE)を使用した。全体的に収縮性が低下し,EFは30%前後で,特に前壁の高度壁運動異常を認めた。また,術前に認めなかった中等度の僧帽弁逆流症を認めた。術後12誘導心電図では,II, III, aVf, V4~V6誘導でST部分の著明な低下を認めた。手術中およびICU入室後にはCK-MBの有意な上昇は認めなかった。
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