巻頭言
基礎医学の振興をいかにして達成するか
内薗 耕二
1
1東京大学医学部生理学教室
pp.109
発行日 1963年6月15日
Published Date 1963/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425906276
- 有料閲覧
- 文献概要
日本の医学の分野の中で,国際的レベルに達しているものは二,三に止まらないと云われる。事実,最近は名実共に国際的な学者として活躍している人も少くないようである。基礎医学の分野でもそのような国際的声価をかち得ているものが少くなかろう。産業の分野でも同じことが云われそうである。未曾有の戦禍で完膚なきまでにたたきのめされた日本とドイツが,戦後20年足らずのうちに再び起ち上つたのは外国からは驚異の眼で見られてもいよう。しかしそのような国際的声価をかちえている学問や,産業,あるいは学者の内情はどうであろうか。日本の産業は欧米先進国の模倣が極めて多い。文学や芸術にしても事情は全く同じであろう。学問の世界においても事情は何等これと異ならない。
東京は国際的な都市として一応外国からも認められ,近くはオリンピックなどもここで行われようとしているが,東京の内情はどうであろうか。住宅,水道,下水のことは云うに及ばず,この頃の交通難や空中降下物などの公害はどうであろうか。欧米の一流都市に比べて我々は唯々赤面するばかりである。東京に愛想をつかして八丈島に逃避した音楽家があると聞いた。ただ無計画に家を建て道を造り,局面を糊塗して来た積年の報いがここにふき出して来ている訳であろう。政治家だけに責任をおわしてはなるまい。
Copyright © 1963, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.