巻頭言
基礎医学の振興
古河 太郎
1
1大阪市立大学
pp.1
発行日 1967年2月15日
Published Date 1967/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902710
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大学では学生の教育のほかに学術の研究を行なうことが建前であり,教えるだけで研究をしないならばそれは大学とはいえない。しかし,ひるがえつて研究にそもそも如何なる意義があるのかを考えると,それは必ずしも自明なものではないしまたこのことが真剣な議論の対象とされることも比較的まれであるのに気づくのである。今日研究はしばしば惰性的に行なわれ,大学の先生が研究ということをするのはあたかも神主が神道の行事をとり行なうのと同じといういささか皮肉な見解にもあながち反対できない点がある。このようなことになる理由の一つは研究といつてもいろいろのものが含まれているからである。成果が実用と密接につながるような研究ではその点あまり問題はないが,多くのいわゆる基礎的研究は実利あるいは実用ということをあまり念頭におかずに行なわれるものであつて,いわば研究のための研究であるが,大学ではこのような研究も甚だ重要であると考えられる。すなわちこのような眼前の利益にとらわれない研究によつて大きな学問の進歩がもたらされ,そこに自づと実際的応用も開かれると考えられるが,そのことよりもつと大切なことは大学でそのような研究活動が盛に行なわれることがそこに学者の社会が形成されるための契機として不可欠であるという点である。
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