巻頭言
科学の次元
真島 英信
1
1順天堂大学医学部生理学
pp.273
発行日 1956年6月15日
Published Date 1956/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905889
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科学には実にさまざまの種類があるが,その間に自らより高次のものと低次のものとの区別があるようである。人間の集団を扱う社会学や心理学は最も高次なものであり,個体や器官を対象とする医学や器官生理学はそれより次元が低い。更に細胞を対象とする一般生理学や,その代謝様式を扱う生化学は一層低次である。しかしこれらの科学も無機物を扱う科学に比べたら一段と高次なものである。又同し医学の内にも種々の次元があり,大まかにいつて臨床医学は基礎医学に比して次元が高いと考えられる。このような科学の次元の存在は単なる感じではなく,それぞれの次元における世界像の成立が可能であつて,認識論的にも方法論的にも認めないわけにはいかない。そうして次元の低い科学の方が高いものに比べて,より単純であり基礎的であることは否めない。
ところで学者の間には,より低次な科学程根本的であり,正確であり,確定的であつて,高次な科学における法則などはいい加減なものであるという誤解がありはしないだろうか。基礎的な科学が進歩することによつて始めて高次の科学も進歩するのだとすれば,学者たるものは高次の科学に対する研究は暫く止めて,最も基礎的な数学や物理学をやつた方がよいということになるかもしれない。そうではなくて真理や法則性は次元毎に存在するようである。水素や酸素の性質を究め盡しても分子としての水の性質は又別であつて,水は水として研究に値する。
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