巻頭
大学の使命は教育か研究か
小林 芳人
1
1東京大学医学部藥理学教室
pp.251
発行日 1954年6月15日
Published Date 1954/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905776
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最高の教育機関が同時に優れた研究機関となつて居るのが現状である。研究機関の全部がそうであると云うのでは無いが,生物特に医学関係では純然たる研究機関よりも大学の研究室が現在は数に於いて圧倒的である。学会に出る発表業績を見ればよく解る。前者は教育に多くの時間と労力を割かれる後者に比して時間的には多くの利点を持つて居る筈である。大学の様な所は教育と研究とが並列して居る,教育をやるかたわら研究をやる。人によつては研究のかたわら教育をやる。両方が大いに関連があるのだが実際にこの二つの大きな仕事にどの位の割合に力を入れるかは中々難かしい問題である。誰も規定して居ないし,又きめることも不可能であろう。それは研究上の立派な成果を上げることが教育にとつても無関係のことでなく,寧ろ教育を受ける側の者にそれが与える影響は決して無視出来ない程大きい場合があるからである。最高の教育は最高の研究機関によつて始めて可能であると云う事実は否定出来ない。しかし研究をやる側にとつてみると教育すると云うことは必ずしも研究の助けとはならない。つまり我々の様に大学の研究室に居る者にとつて教育する為に用うる労力が必ずしも研究自体の推進力とはならないと云うことである。こゝに教育と云つて居るのは一人前の学者を育成する意味の專門的教育では無く,一般の教育を受ける大学々生教育の意味である。
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