卷頭
解剖実習と生体觀察
藤田 恒太郎
1
1東京大学医学部解剖学教室
pp.195
発行日 1954年4月15日
Published Date 1954/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905765
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解剖学が医学教育上最も基礎的な学科であることは誰でも認める所であり,その解剖学をよく理解し,生きた知識を身につけるためには解剖実習即ち人体を切り開いてその内部構造を観察することが最も重要な課程であることは言うまでもない。学校当局が解剖実習の満足な実施,ことに死体の集收に特別の考慮を払つているのもそのためであり,また文部省は近年解剖実習の改善のため特別の委員会を設け,又特別の予算を計上してくれて,大変な力の入れ方である。学生諸君にしても,解剖実習だけはしつかりやらなければという自覚をもつているようである。
ところで解剖学の学習にはこうした死体の解剖だけで充分であろうか?わかり切つたことのようで,つい見遁され易いことは,解剖実習での観察の対象が死体であること,そしてこれらの死体が固定されているということである。固定とは,言うまでもなく,防腐剤或はそれと同様の藥液を血管内に注入して蛋白質を凝固させ,更にアルコール,フオルマリンその他のタンクに保存することである。このように処理された死体が新鮮な,或は生きている材料とちがうことは思いの外で,実例を挙げて比較するなら,煮た肉と生の肉,或はゆで玉子と生玉子とのちがいに等しい。
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