展望
最近の発生生理学(特にオルガナイザーの問題について)
藤井 隆
1
1東大理学部 動物学教室
pp.282-286
発行日 1950年6月15日
Published Date 1950/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905512
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1.發生生理學の課題
ここに発生生理学というが,この言葉は從來屡々実驗発生学や実驗形態学と同義に用いられ,発生に際しての形態発現の機構を,形態学の立場から分析する意味に用いられてきたのである.しかし最近7〜8年間に於ける発生学の発展は,ようやく生理学的又は生理化学的の研究方向を示しつつある.しかもその際,注目に値いすると思われることは,方法としては純粋に生理学乃至生理化学的であることは当然としても,上述の実能発生学で得られた貴重な成果の上に立つている点である.
いうまでもなく,生物は日常,呼吸,運動,同化,筋肉の収縮,神経の興奮等の機能を営んで生活しているわけであるが,これらの変化はすべて比較的短時間に起り,且つ可逆的に繰返し得るものである.しかし一方,生物は一つの細胞である受精卵から出発し,細胞の増殖及び分化により次第に1個の個体に発生するのであるし,更に,個体は遺傅という過程により,1世代から次の世代えと連続する.これらの生物学的変化は長い時間かかつて起るもので,繰返すことのできない1回的なものといえる.從來,生理学は主として,前の方に述べた短時間的な日常の機能を対象としており,発生とか遺傳の現象を問題とすることはなかつた.発生や遺傳の過程はもつぱら,形態の変化として追求され,從つてその学問はながい問記載的であつたのである.
Copyright © 1950, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.