Japanese
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連載講座 脳の可塑性の物質的基礎
蛋白質燐酸化反応と可塑性
Protein phosphorylation and plasticity
宮本 英七
1
Eishichi Miyamoto
1
1熊本大学医学部第一薬理学教室
pp.315-321
発行日 1988年8月15日
Published Date 1988/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425905149
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ヒトの学習や記憶が形成されていく過程に,脳内での物質の変化が伴っていることは想像に難くない。その機作が一時考えられていたような,特定のRNAや蛋白質,ペプチドの新生に帰する試みはあまり成功ではなかったことは周知のとおりである。現在の有力な仮説は,シナプス伝達効率の持続的増強に存すると思われる。数分続く短期と数時間から数日にわたる長期の増強があり,前者の例としては,cAMPなどのいわゆるセカンドメッセンジャーの増加によるイオンチャネルの修飾によってCa2+が細胞内に流入し,神経伝達物質の放出の増加に基づくと考えられている。後者は,RNA合成,蛋白質合成によって新しい蛋白質の形成により記憶の長期保持がもたらされる。このプロセスの実態は,側枝発芽などの新しい神経回路網の形成にあるのかもしれない。
記憶の分子機構に蛋白質燐酸化反応の関与が考慮され論じられている。Crick1)はシナプスの必須分子に活性型と不活性型蛋白質を想定し,互いの転換が燐酸化反応による蛋白質修飾によって行われる可能性を論じている。もっとも,蛋白質修飾は燐酸化反応に限らず,メチル化,グリコシル化反応なども対象とし得ると述べている。
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