巻頭言
生体の組織について—吉田富三先生のことなど
飯島 宗一
1
1広島大学
pp.57
発行日 1973年4月15日
Published Date 1973/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902948
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吉田富三先生の生涯最後の学問的作業の一つが「細胞病理学雑記帖」であることに私はいろいろの感慨をおぼえる。むろん吉田先生の主要な業績は癌研究の領域にあつたが,その全過程に病理総論的視野が一貫していたと思われ,そこに吉田腫瘍学の魅力がつねに感じられた。また私などは吉田先生の長崎時代の腫瘍以外の病理学的論文に啓発されるところが少なくない。「雑記帖」第14回は「正常新生と病的新生」の章で,骨の形成とその異型的新生が扱われている。そのなかに「骨の発達は,単に骨組織の形成に止まるのではなく,化骨期を越えて変形過程がさらに進行し,骨髄の生成にまで到ることを前提としているのである」という文章があり,また「細胞学説にとつて最も重要なのは,個々の軟骨細胞がそれぞれに骨細胞に転生する事実である。骨から骨髄への転形成もあり,また骨髄から骨の逆の転形成もある。これらをみれば,組織の新生とは,組織の置換,転換,変形(化生),転形成などの現象の連続であることが知られる。」という一節もある。生体におけるこの種の現象はつまるところ細胞の分化と組織の形成にかかわるのであり,組織病理学の原点的課題の一つである。原点的課題の一つではあるが,ウイルヒョウ以来満足すべく解明されたことがない。吉田先生があらためてウイルヒョウまでたちかえる必要を感じ,それを一種の「遺言」に残されたのは,もちろん単なる医学史的趣味のレベルの問題ではないといわなければならない。
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