実験講座
位相差顕微鏡と干渉顕微鏡—その構造と有効な使い方
水平 敏知
1
1東京医科歯科大学
pp.178-182
発行日 1966年8月15日
Published Date 1966/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902688
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■ 位相差顕微鏡の歴史
われわれ人間の眼は,明暗の差や色の差を識別する能力はかなりすぐれているが,ガラスのように透明な物体になると,よほど大きい傷やよごれがつかないとなかなかこれを見分けることができない。光学顕微鏡が医学・生物学を今日の発展に導いた偉大な礎の1つであつたことに間違いはない。しかし,なまの細胞や菌などのように透明で明暗・色調の差に乏しい物体を見ても,それらの内部の細かい構造を知ることは甚だ困難である。われわれの先輩達はそのために絞りをうんと絞つて見ることや,組織などを固定・染色して強い色調の差をつくり出して観察することを教えてくれたが,しかし生きているままでそれらの形態や微細構造の詳細を知ることはほとんど不可能なこととされていた。
ところが,1935年,オランダのF.Zernikeは透明な物体でもそれらの中にごくわずかに存在する屈析率や厚さの差(位相差)をとらえ,顕微鏡の光路中に特殊な仕掛けを施すことによつて,その位相差をわれわれの眼で識別できる明・暗の差になおして見ることに成功した。これはAbbeが前世紀の終りに出した輝かしい光学理論以来のすばらしい業績というべきで,そのおかげで生きている細胞でも,菌でも,原虫でもなんら染色を施したり処理することなしに,鮮明にそれらの形態や微細構造を知ることが可能になつたのである。
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