巻頭言
基礎医学部の設置を望む
吉村 寿人
1
1京都府立医科大学
pp.261
発行日 1965年12月15日
Published Date 1965/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902651
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わが国の医科大学ではいわゆる基礎医学として,解剖学,生理学,生化学,薬理学,病理学,微生物学,免疫学,医動物学などが講ぜられ,それぞれ1〜3単位の講座によつて教育,研究が推しすすめられている。しかしながら今日の基礎医学は,物理学,化学,電子工学,生物学,特に遺伝学,分子生物学などの近接科学の進歩に伴つて飛躍的な発展をとげつつあり,この発展に押されて医学部においては生物物理,電子顕微鏡,放射線基礎医学,高次中枢神経生理学の研究施設または研究室が新設せられ,さらにはビールス,体質医学,遣伝,脳研究所などが独立した研究所として発足し,わが国における旧体制の医学部に入り切らない研究領域の開発を行なつているのが現状である。一方,わが国の基礎医学者のうちで呼吸,循環,消化,吸収,内分泌,排泄などの臨床医学との結びつきの多い領域を専攻する者は甚だ少なく,この人材の不足は学生の教育にも影響し,臨床医学の研究を推進する上に大きい障害となつていることはしばしば臨床医学者より指摘せられている。要するに,基礎医学全般を通じ,生物学としての立場と臨床医学の基礎としての立場の2つの学問の性格をもつているわけである。
しかも他方において,基礎医学を専攻する若い研究者は近年特に減少する傾向にあり,大学院学生にして基礎医学を専攻するものの数は臨床医学部門の1/3ないしはそれ以下に過ぎないのであつて,将来の基礎医学の発展に大きい危惧を抱かせるものがある。
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