特集 現代医学・生物学の仮説・学説
2.分子生物・遺伝学
中立説と進化
日下部 眞一
1
1広島大学総合科学部
pp.472-473
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900612
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概説
ダーウィンの自然淘汰説は,メンデル遺伝学に裏づけられて,1950年代前半までにはネオ・ダーウィニズムまたは「進化の総合説」とよばれる,生物進化を説明する唯一の指導原理として広く認められるようになった。この説は,生物のいろいろな形質はすべて適応進化の産物であり,生物進化は,淘汰に有利な(生物の生存と繁殖に都合のよい)突然変異が累積的に集団内に蓄積されておこると主張する。
このような生物進化の研究は,ほとんどが眼に見える表現型を対象として行われてきたものであるが,1950年代中頃からの分子生物学の発達によって,遺伝子の直接的産物であるタンパク質のアミノ酸配列を種間で比較して分子レベルでの進化を定量的に扱うことができるようになり,多くの新事実が得られてきた1)。その一つは,種間のタンパク質のアミノ酸置換数は,種が分かれてからの時間にほぼ比例するという「分子時計」の発見である。もう一つの発見は,集団内の遺伝的変異に関わることで,簡便な電気泳動法の適用によって,細菌からヒトにいたる各種生物で多量のタンパク質多型がみられたことである。これら2つの新事実を統一的に説明する理論として「分子進化の中立説」が,1968年,木村資生によって提唱された2)。
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