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特集 新組織学シリーズⅡ:骨格筋—今後の研究の発展に向けて
Ⅰ.骨格筋収縮研究の多様な側面
筋小胞体カルシウムポンプの構造とイオン輸送機構
Structure and ion transport mechanism of the sarcoplasmic reticulum calcium pump
豊島 近
1
Toyoshima Chikashi
1
1東京大学定量生命科学研究所
キーワード:
筋小胞体
,
カルシウムポンプ
,
能動輸送
,
原子構造
,
筋弛緩
Keyword:
筋小胞体
,
カルシウムポンプ
,
能動輸送
,
原子構造
,
筋弛緩
pp.505-509
発行日 2021年12月15日
Published Date 2021/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425201430
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骨格筋の筋原線維は袋状の構造体に取り囲まれている。この袋状構造体は筋小胞体と呼ばれ,Ca2+の貯蔵庫である。筋収縮の際にはこの貯蔵庫からCa2+放出チャネルを通じてCa2+が放出され,弛緩の際にはCa2+ポンプ〔sarco(endo)plasmic reticulum calcium ATPase;SERCA〕がCa2+を小胞体内腔に汲み上げ,筋細胞中のCa2+濃度をサブμMまで下げる。このようなCa2+による筋収縮の制御は,「Ca2+が生体反応を制御する」というCa2+説の最も顕著な例であるが,江橋による「筋肉の弛緩因子は断片化された筋小胞体であり,弛緩は膜にあるATPaseによってCa2+が輸送されるために起こる」との発見1)がCa2+説の嚆矢となった(https://brh.co.jp/s_library/interview/ 12/)ことは,今や科学の歴史に埋もれかかっているように感じられる。筆者は2000年に最初の結晶構造決定に成功して以来2),集中してCa2+ポンプの構造解析に取り組んできた。その結果,反応サイクルほぼ全体をカバーする14の中間体(うち4つは未発表)の構造決定に成功し(図1),輸送メカニズムの大略は理解できるようなった。ごく簡単に言えば,イオンポンプはミクロの手押しポンプのように働くのである(ただしレバーを押すのはATPではない)3)。本稿では,Ca2+ポンプの分子構造とイオン輸送メカニズムに関し,ごくごく大まかに述べてみたい。
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