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現代生物学において本質的に重要な概念である“ゲノム”は,1920年に,ドイツの植物学者Hans Karl Albert Winklerが提唱した。ある生物の持つ遺伝情報のすべてという意味がある。当時既に,遺伝子が細胞核内の染色体に並んでいることがわかっていた。そこで,遺伝子(gene)と染色体(chromosome)のそれぞれ最初の部分と最後の部分をくっつけて,“genome”という単語を考え出したとされている。その後1930年になって,コムギのゲノムを調べた日本の植物遺伝学者,木原均が,ゲノムに「ある生物が生きてゆくのに必要な最小セットの遺伝子の集まり」という定義を与えた。彼は筆者が勤務している国立遺伝学研究所の第二代所長も務めている。その後,遺伝子がDNA(デオキシリボ核酸)という物質からできていることが1940年前後に解明された。1953年には,DNA分子が二重らせん構造をとることがJames Dewey WatsonとFrancis Harry Compton Crickによって提唱された。この構造は,親から子に遺伝情報を伝えるのにとても適したものであり,生命の誕生を説明しやすくなった。なお,2020年はゲノム概念誕生百周年である。そこで国立遺伝学研究所は,沼津のプラザヴェルデにおいて,これを記念した国際シンポジウム(代表:池尾一穂)を開催する予定である。
2018年度から5年間の予定で,筆者を領域代表とする文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明」(領域略称名:ヤポネシアゲノム)が始まった。現代人ゲノム,古代人ゲノム,動植物ゲノム,考古学,言語学,大規模ゲノム解析の6班から構成され,更に2019年度からは,17件の公募研究が始まった。公募班では,現代人や古代人の研究のほかに,アズキ,ダイコン,アワ,ヒエ,ニホンオオカミなどの動植物ゲノムも研究する予定である。これらのゲノム研究に加えて,土器や住居跡など人間の営みを遺跡や遺物から探る考古学研究と,ヤポネシア内の言語(アイヌ語,日本語,琉球語)とその周辺の言語の多様性を探る言語学研究を進める。本新学術領域の詳細については,領域ホームページ(http://www.yaponesian.jp)を参照されたい。
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