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先天性心疾患は胎生期の臓器形成異常として最も頻度の高い疾患であり,全出生の約1%の割合で発症する。日本国内では約1万人が発症している。先天性心疾患の特徴は,治療の対象となる新生児や乳児の心臓が小さいだけではなく,疾患のバリエーションが広く,個々の患者の心臓大血管の立体構造が極めて複雑なことである。したがって,外科手術による治療の成否は,個々の患者の心臓大血管の複雑な立体構造を正確に診断できるかどうか,またそれらの情報を執刀する心臓外科医が正確に把握できるかどうかにかかっている。これまでの断層心エコーや心血管造影検査に加えて(図1A,B),近年MR,MSCTによる三次元画像診断(図1C)が発達し,様々な医療分野で広く応用されるようになった。このような三次元画像診断は先天性心疾患の診療にも活用されるようになり,心臓の立体構造をあらゆる角度から観察できると共に心臓の内部構造も確認することができるようになった。その結果,これまで手術不能と考えられてきた複雑な先天性心疾患の外科手術が可能となってきた。しかしながら,これらの三次元画像診断装置は,複雑な先天性心疾患の診断と治療方針の決定に必要かつ十分かというと,決してそうではない。モニター画面上に映し出される三次元画像は,心臓の表面に影をつけた見かけ上の三次元画像(volume rendering像)に過ぎず(図1C),臓器の立体構造を忠実に表現しているわけでないからである。実際の手術では,外科医は心臓を手で触れて内部構造を確認し,右心房を主体とした最小限の切開から得られる視野を通して心内の修復を行うため,三次元画像と同時に触覚にも訴える情報手段が必要とされる。そこで,患者の三次元画像情報からあらかじめ心臓の忠実なレプリカが作製でき,外科医が実際の手術前に切開や縫合による模擬手術を行うことができれば,先天性心疾患の手術における究極の情報を外科医に提供できると考えられてきた。同時に,このようなレプリカ作製による情報提供は,断層心エコーのように撮り手の解釈に左右されることなく,三次元構造を正確に外科医に伝達できる。
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