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もし,手元にインターネットにつながっているPCがあるなら,NCBIやDDBJといった遺伝子データベースにアクセスすると,ありとあらゆる生物種の遺伝情報が入手できる。更にLinuxのようなOSの少しの知識があれば,オープンソースのソフトウェアを入手してPC上で解析ができる。今は,そのような時代になっている。一度の解析で数Gbにも及ぶ塩基配列が一度に入手可能な次世代型シーケンサーの登場によって,今では,個々の微生物ではなく,その環境に存在するほぼすべての微生物の情報を一度に取得できるようになってきている。今この瞬間にも世界中の研究者が,莫大な量の情報をデータベースに登録している状況である。
今回は,「細菌叢解析の光と影」というタイトルで企画を立てさせていただいた。“細菌叢解析の光”というのは,言うまでもなく,これまで実体のわからなかった細菌叢全体の設計図が入手できることになったことであろう。それぞれの環境に適応した微生物の“群れ”を一度に解析することによって,生体の常在菌であれ,環境中の細菌叢であれ,その構成している菌の種類については,ほぼ出揃ってきている。例えば,一般書にも腸内細菌の特集が組まれているのをみれば,単に「お腹の具合が悪い」と思っていて,ヨーグルトを食べるとなんとなく良くなった,というごく日常的に当たり前と思っていた現象を,分子のレベルで話ができるようになってきたのである。それだけではなく,がんや生活習慣病(肥満など)にも細菌叢の変化が影響していることも明らかとされてきている。環境中の微生物であれば,「肥料を土にいれると野菜が沢山とれるようになった」といった経験的に知っている事象を,「土の中の細菌叢がこんな風に変化した」と,細菌叢の変化で説明できることからも,そのインパクトの大きさがわかる。
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