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生体を構成するすべての細胞は,細胞表面の受容体を介して環境の変化としての外界からの刺激を受けとり,適切な細胞応答を引き起こすことによって細胞特有の役割を果たしている。刺激の入り口となる受容体の構造や動作機序は様々であれ,すべてに共通する点は細胞膜という脂質二重膜に置かれたなかで素過程を発動させるということである。そしてその際,受容体の多くは,不均一に分布した脂質とタンパク質によって区画化されたドメイン様構造において様々な分子を会合し,分子の局所濃度や衝突頻度を高めることによってシグナルのハブとしての役割を果たす。重要な点は,受容体にリガンドが結合したのち,細胞膜からエンドソームといった時空間にまたがって脂質ドメインはシグナル複合体形成の足場を提供し,これはすなわち細胞表面だけでなく,細胞内のオルガネラにおいても脂質ドメインが存在し,細胞機能発現に重要な役割を果たしているということである。
筆者らは炎症応答の分子基盤の解明を通じて,免疫難病の治療標的を同定することを目指して研究を行っている。生体において臓器を構築する個々の細胞のほとんどは,細胞外基質あるいは細胞相互の接着により位置情報が決められ,また,その形態の自由度に制限を受けている。一方,球形浮遊状態で体内を循環する免疫細胞は,刺激に応答してダイナミックに形態を変化させながら運動し,可逆的な細胞間あるいは細胞-基質間の接着を形成,消滅させたりしながら,非自己である感染細胞やがん細胞の識別と殺傷,抗原提示,貪食殺菌などを行っている。これらの過程は,受容体を介した刺激により,他の細胞にはみられない制御下で細胞膜のドメイン再構築や大きな容量変化を伴って進行し,更にはそれらを収束させる恒常性維持機構によって支えられている。こうした免疫細胞にユニークな膜ドメインの制御機構の理解は,多くの疾患の病態形成を担う炎症応答の制御に向けた基盤技術開発には有益である。
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