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アルツハイマー病は認知症の主要疾患であり,進行性かつ根本治療の手だてがない難病である。アルツハイマー病による病的な健忘は,加齢である程度生じる健忘(いわゆる“もの忘れ”)とは全く異なるものであり,多くの場合,社会性の喪失や人格の変貌を伴う。加齢に伴い発症率が高まることがわかっており,既にわが国をはじめとした高齢社会化した世界各国において,患者数は年々増加の一途を辿っている。したがって,アルツハイマー病の制圧は全世界における喫緊の課題である。
アミロイドβ(Aβ)は40残基前後の長さのペプチドであり,病理学的解析ならびに遺伝学的解析から確立されてきたアルツハイマー病発症における重要な因子である。Aβの脳内蓄積はアルツハイマー病発症への引き金とも言える病理学的変化であり,Aβ異常を防ぐことは予防的な効果も含め,有効なアルツハイマー病の治療策に繋がると期待される。しかし,幾つものAβ分子標的薬が臨床試験で評価されているが,残念ながらまだ特に優れた薬効を示すものは見つかっていない。これは薬剤の投与時期が“遅すぎる”ことが一因であると考えられている。アルツハイマー病検査の多くは,問診を通して患者の認知機能障害の程度を判定し,アルツハイマー病以外の認知症を除外していくことで行われる。しかし,健忘などの臨床症状が顕在化した段階では,既に回復不可能なほど神経細胞の変性や細胞死が生じている。先手を打つために開発された分子標的薬を,後手に回ったタイミングで投与していることが推測され,この場合,当然ながら効果は得られるはずもない。発症機序が徐々に明らかになると共に,分子標的治療を目指した創薬が行われてきたが,臨床試験の成績が振るわないという事実は,アルツハイマー病の本質的な理解と,それに基づく取り組みの必要性を強く示唆している。そこで本稿ではアルツハイマー病におけるAβの分子病態について解説を行うと共に,Aβに関する基礎研究から立脚した治療戦略として,われわれの最新の研究成果を紹介したい。
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