Japanese
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特集 細胞極性の制御
ピロリ菌CagAの発癌活性と細胞極性破壊
Disruption of epithelial polarity in the oncogenic activity of Helicobacter pylori CagA
畠山 昌則
1
Masanori Hatakeyama
1
1東京大学大学院 医学系研究科 微生物学分野
pp.229-235
発行日 2012年6月15日
Published Date 2012/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101290
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胃癌は部位別癌発生の第4位,部位別癌死亡の第2位を占め,毎年全世界で約70万人が胃癌で命を落としている。なかでも,日本・韓国・中国などの東アジア諸国は世界的にも胃癌発症が際立って高く,わが国では毎年10万人が新たに胃癌と診断され,約5万人が胃癌で死亡する状況が続いている。ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)はMarshallとWarrenによりヒト胃粘膜から単離された微好気性らせん状グラム陰性桿菌である1)。ピロリ菌は全世界人口の約半数の胃に持続感染していると考えられており,わが国におけるピロリ菌感染者は約6,000万人と推定されている。その発見を契機に,ピロリ菌は慢性胃炎ならびに消化性潰瘍の主たる原因として脚光を浴びてきたが,その後の大規模疫学調査およびスナネズミを用いたピロリ菌感染実験などを通して,胃癌発症におけるピロリ菌感染の役割に多くの注目が集まることとなった。こうしたなか,上部消化管の粘膜病変発症にかかわると考えられるピロリ菌病原因子の機能解析が精力的に進められてきた。これら一連の研究をもとに,現在では大多数のヒト胃癌はピロリ菌の持続感染を基盤に発症すると考えられるようになってきた。とりわけ,CagAタンパク質を産生するピロリ菌はCagA非産生ピロリ菌に比較してはるかに強い胃粘膜病変を惹起し,臨床疫学的に胃癌と最も密接に関連することが明らかとなってきた。本稿では,ピロリ菌CagAの病原生物活性を担う分子機構を概説するとともに,最近明らかにされたCagAによる上皮細胞極性破壊機構と上皮発癌におけるその意義について述べる。
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