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ウイルス,細菌,寄生虫などの感染を基盤に発症する癌(感染癌)は,感染性因子の除去により発癌プロセスの進展阻止が可能であり,癌予防の観点からも社会的に重要な意味を持つ。本総説が主題とするヘリコバクター・ピロリ感染症としての胃癌を含め,ヒトの癌全体の20-30%はこうした感染性因子が原因となって発症すると推定されており,胃癌は全癌死亡の10%,B型/C型肝炎ウイルスによる肝細胞癌は6%,パピローマウイルスによる子宮頸癌は5%を占める。ピロリ菌感染と胃癌との関連は1990年代前半の臨床疫学研究から指摘され1-3),この結果をもとに,世界保健機構(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は1994年にピロリ菌をたばこと同じグループⅠ発がん因子(definitive carcinogen=確実な発癌因子)に認定した。90年代後半に入り,スナネズミ(Mongolian gerbil)へのピロリ菌感染実験において胃癌の発症が報告され4,5),両者の関連はより明確なものとなった。2001年,Uemuraらは,平均7.8年間にわたるピロリ菌陽性者1,240名ならびに陰性者280名のコホート調査結果を発表し,ピロリ菌陽性者集団から38名の胃癌患者が発症した一方,陰性者集団からは1名の胃癌発症者も認めなかったことを報告した6)。この報告は,ピロリ菌感染が胃癌発症に必要不可欠であることを示している。しかしながら,両者をつなぐ具体的な分子機構の理解が進まない状況の下,はたしてピロリ菌がヒト胃癌発症に決定的に重要な役割を担う主役なのか,あるいは胃癌の発症・進展を促進する脇役として働いているのか,という重大な疑問は最近に至るまで残されたままであった。
疫学調査の結果から,大多数の胃癌の発症には先行するピロリ菌の持続感染が必要条件であると考えられるが,一方では,すべてのピロリ菌感染者が胃癌に罹患するわけではない(胃癌発症は全感染者の5-10%程度)。胃癌発症のプロセスには,ヒトならびにピロリ菌の双方に存在する遺伝的多型が複雑に関与していると推察される。事実,胃癌感受性に関与するヒト側の遺伝的要因として,IL-1βなど胃酸の産生・分泌を制御するサイトカイン遺伝子に存在する一塩基多型(SNP)の重要性が示唆されている7)。
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