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ヒトの脳には約140億個のニューロンが存在すると考えられており,それらが複雑なネットワークを形成することで学習や記憶などの高次機能を発揮している。しかしながら,このような高次機能を発揮するためにはニューロンのみならず,ニューロンの神経活動を支えるアストロサイトやオリゴデンドロサイトといったグリア細胞の存在も必須である。脳-神経系を構成するこれらの細胞種は自己複製能と多分化能を保持した共通の神経幹細胞から分化・産生されるが1),神経幹細胞は胎生初期から多分化能を持っているわけではない。胎生初期において自己増殖を繰り返していた神経幹細胞は,胎生中期にまずニューロンのみへの分化能を,続いて後期にはアストロサイト,オリゴデンドロサイトへの分化能を獲得し,多分化能を保持した神経幹細胞へと成熟する2)。
このような段階的な分化能の獲得や各細胞種への分化は,サイトカインや増殖因子などの細胞外因子に加え,エピジェネティックな細胞内在性プログラムにより,時空間的に厳密な制御を受けていることが明らかになりつつある(図1)。エピジェネティクスとは「DNA塩基配列の変化を伴わずに子孫や娘細胞に伝達されるその遺伝子機能の変化」と定義され,DNAのメチル化やヒストンの化学修飾(アセチル化,メチル化,リン酸化など)に伴うクロマチンの構造変換によって遺伝子発現を制御する機構である。エピジェネティックな遺伝子発現制御機構と分化は密接にかかわっており,各細胞種特異的なクロマチン修飾パターンが形成されることにより,それぞれの細胞に特徴的な遺伝子発現を可能にしている。本稿では現在までに明らかとなっている神経幹細胞の分化制御にまつわる細胞外因子や,エピジェネティクス機構の代表的なものについて概説したい。
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