特集 シナプスをめぐるシグナリング
10.スカフォールドタンパク
シナプス局在から見えるPSD-95ファミリーの機能多様性
土井 知子
1
Tomoko Doi
1
1京都大学大学院 理学研究科 構造生理学講座
pp.492-493
発行日 2010年10月15日
Published Date 2010/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425101060
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膜会合性グアニレートキナーゼファミリー(MAGUK)に属するPSD-95サブファミリーは,哺乳類ではPSD-95,PSD-93,SAP102,SAP97からなり,興奮性シナプス後肥厚(Postsynaptic density;PSD)に局在する代表的な足場タンパク質である。これら分子は,PSDにおいてグルタミン酸受容体をはじめ多数の受容体やシグナル分子と複合体を形成して,受容体が発する情報伝達を調節している。PSD-95ファミリーの4分子は,N末側に三つのPDZドメイン(PDZ1,PDZ2,PDZ3),C末側にSH3/GKドメインという同一の二次構造を持ち,タンパク質相互作用に関わるそれぞれのドメインは非常に高い相同性を持っている。それにもかかわらず,これら4分子のシナプス局在性やシナプスの情報伝達調節における役割は異なっていることを示唆する報告が蓄積してきている。
PSDのNMDA受容体(NMDAR)複合体をマウスとハエで比較すると,ハエのPSD-95ファミリーはDlg分子1種類しかなく,またマウスのNMDARサブユニットのNR2A,2B,2C,2Dの4種類に対しても,ハエではNR2分子の1種類のみである。顕著な違いは下流のシグナル分子の種類ではなく,受容体と直下の足場タンパク質の多様化である。これは,ハエからマウスへの進化に伴う神経細胞の情報伝達機構の複雑化,脳機能の高次化にとって,PSD-95ファミリーや受容体分子の多様化が重要な役割を果たしていることを示唆している。
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